HebeiSpirit号原油流出事故
HebeiSpirit号原油流出事故とは?
Hebei Spirit号原油流出事故(ヘーベイ・スピリットごう げんゆりゅうしゅつじこ)は、2007年12月7日朝(韓国時間)に韓国で起きた石油流出事故。事故後の対応が国際問題となった事象である。
韓国当局は公式に、1995年に起こった石油流出を凌いで、韓国で最悪の重油流出事故であるとしている。この石油流出事故はエクソンバルディーズ号原油流出事故の3分の1程度の規模である。
背景
2007年12月6日昼、仁川港を出発し、巨済島にある三星重工業造船所へ向かっていたサムスン重工業所有の3隻のタグボート及びクレーン船(3000t級クレーン船「サムスン1号」)からなる船団(以下船団)が、7日未明に鶴岩浦付近を航行中に風に流され、一度仁川港へ引き返す為に進路を変更、潮流を利用する目的で、大陸側のタンカー航路をショートカットした。その後、引き返す事を断念し、巨済島へ再び向かった。しかし、この際に船団が航路を逸脱、通過禁止航路を航行した上、海洋警察庁の管制センターからの呼び出しにも応じなかった。
この際、大山港沖の泰安郡の黄海海域で、前日夜に投錨して停泊していた香港船籍の原油タンカーHebei Spirit号(中国名:河北精神號、ヘーベイ・スピリット)が、船団の接近を認識、管制センターに進路情報問い合わせを行った。管制センター側は船団側船長に携帯電話を通じて連絡を行い、管制センターからタンカー側に衝突危険通知が出された。しかし、この際、タグ船団は波に流されており、午前6時52分、荒波の影響でクレーン船のワイヤーがねじれて破断、直ちにタグ側から管制センターにタンカーの移動を要請(この際、ワイヤー破断は通知せず)した。しかし、タンカー乗組員の多くは下船しており、即時移動は不可能であったため、タンカー側は移動不可能の連絡を行った。そして、午前7時15分、破断し漂流してきたクレーン船が、ヘーベイ・スピリット号左側面に激突した。
この事故で、死傷者はなかったものの、衝突によってヘーベイ・スピリット号の5個のタンクのうち3個に穴が開き、積んでいた26万トンの石油(カフジ産原油)のうち、10,800トンの重油が流出した。破損したタンクから流れ出た重油は、損害を受けていないタンクに移され、穴はふさがれた。
流出した重油は近郊の海岸に流れ着いた。流出で影響を受けた地域には、渡り鳥の住むアジアでも有数の湿地帯、泰安海岸国立公園、445の養殖場などが含まれていた。
影響
初期には、冬で温度が低いために、原油の流出は広がらないと考えられていた。しかしながら、季節外れの温かさと強い波、強い風等の天気によって、初期の予想を超えて石油が流出していった。
12月9日には、油膜は10メートルから10cmの幅で33kmの範囲に広がったこれによって、少なくとも30の浜辺とこの地区の半分以上の養殖場が重油の影響を受けたと考えられている。また、韓国の天然記念物であるSinduri Duneが、重油に浸されたと報告されている。
また、多くの渡り鳥はこの地域にまだ渡ってきていなかったが、カモメ、マガモなどの他の海で生活する生物は油まみれになって見つかるものもあった。
12月14日には、石油の塊が安眠島に到達して、少なくとも5つ以上の浜がタールの塊で汚染された。油はこの地域まで広がらないと考えられていたが、強い風と波が原因となりこの地域にまで広がった。12月15日には、タールの塊は保寧市にまで到達し、全羅北道の群山市にまで広まった。
反応
韓国政府はこの地域に国家災害地域に指定した。清掃活動費に3000億ウォンを捻出した。清掃には13機のヘリコプターと17機の飛行機、327隻の船舶を動員した。清掃活動には最低2ヶ月が掛かると見積もられた。10万人のボランティアと韓国の女優Park Jin Heeなど有名人による清掃活動の援助が行われた。2008年の1月4日、海軍は229の船舶と22000人の軍人を清掃活動に参加させた。また、民間人の援助もあった。
事件が起きた33日後の2008年1月10日、忠清南道によると、ボランティアの人数は100万人を越え、103万7000人まで到達したとされている。泰安郡の緊急対策室の報告では、一般の市民がボランティアの大部分で58万人であり、続いて地元居住者が18万6700人、軍人と警察が12万7000人、軍人と警察を除く公務員が57,143人であったと報告している。緊急対策室は、平日には2万人のボランティアが、週末は平均で3千人のボランティアが作業の一部を手伝った。
2008年1月までに、おおよそ4153トンの流出石油が、268,710kgの石油吸収材とその他の回収装置によって集められた。財政的な出資は、合計で277億6000万韓国ウォンが寄付され、食料や衣料品も寄付された。泰安郡の緊急対策室は7億ウォンを越える金額が4200の個人や組織から寄付されたと述べている。
国際的には、「北西大西洋地域における海洋および沿岸の環境保全・管理・開発のための行動計画」(NOWPAP)が、韓国政府の要求に応じて行動した。 韓国は、NOWPAPの他の参加国(日・中・露)が在庫している入手可能な防災物資を補給の問題を考慮に入れて、中国から50トンの、日本から10トンをそれぞれ受け取ったとしている。また、日本は、UNEP/OCHA(UN Office for the Coordination of Humanitarian Affairs)環境部部隊参加チーム、欧州委員会監視情報局、アメリカ沿岸警備隊、バルセロナ自治大学(AUB)等のチームが加わったエキスパートチームを送った。
責任問題と国際問題
この事故では、大韓民国海洋水産部の地方局は、事故の2時間前、艀(クレーン船)の船長にタンカーに近すぎると二度警告を試みたが交信できなかった事は背景でも述べたとおり[1]艀の船長は吟味に基づいて荒い天候の中この区域を通り抜けた。曳航船のワイヤーが切れ、暴走したクレーン船が船体にぶつかったとき、タンカーは検疫のため定められた場所に投錨して船を錨で固定していたと証言している。であるが、これは船団の船長の証言で、Ch12でコールされていたため、応答できなかったと証言(管制センターはCh16を使用)した。しかし、先述のとおり、船団側が指定航路航路および侵入違反を犯していることもあるため、1審ではタンカーの船長、一等航海士は無罪とされた。ところが、2審において乗組員に対する逆転有罪判決が出され、船長に懲役18ヶ月及び1000ドルの罰金、一等航海士に懲役8ヶ月の判決がなされた。12月20日に、大韓民国海洋警察庁が事件の原因調査を終え、責任はクレーン船の船長、曳航船の船長、タンカーHebei Spirit号の船長のいずれにも見られるとしたのが原因であった。これにより、2名は収監された。
ところが、この異常とも言える判決に、国際運輸労連、インタータンコ、インターカーゴをはじめとした海運労使団体が反発。インド船員組合・インド海事組合・商船組合に至っては韓国行きの船舶への乗務をボイコットする事態となり、ムンバイなどではサムスン製品の購買ボイコットや打ち壊しなどのバッシングが発生し、2名の無罪及び釈放を求める抗議を行った。
その後、2名は保釈はされたものの、韓国からの出国を禁じられ、ホテルで軟禁状態に置かれていたが、2009年6月11日に、540日ぶりに開放・帰国した。
最近の報告では、損失の補償のほとんどは、Hebei Spirit号の保証人である中国船主責任相互保険組合(中国P&I)とスクルドP&Iによって支払われ、残りをサムスン火災保険とロイド P&Iが補填すると考えられている。中国P&IとスクルドP&Iがその費用を払うことができない場合、ダメージが国際会議で決められた船主の制約を上回る場合、国際油濁補償基金(IOPCF)が責任をもって支払うことになるだろう。
この事故による影響は、物流にも影響を及ぼし、韓国国内においてはコンテナ物流量が2008年11月から4ヶ月連続で大幅減少と言う事態にまで発展、5月にも運送ストが予告されるなど、現在でもダメージが残る結果となった。
サムスンの要求による上告の際の検察当局の共謀
ロイドリストと他のメディアの報道によると、韓国海事当局、検察、サムスンの弁護士は2人の船員の再審を共謀して告訴している。管理会社であるV.Shipsの社長は韓国を訪れ、抑留されたHebei Spirit号のクルーに会っている。彼は最近の出来事が、韓国当局、検察当局と漂流しタンカーに激突したクレーン船の所有者であるサムスン重工業と韓国の検察当局の間が「共謀を示唆している」とかたっており、その出来事はサムスンと検察当局の取り組みで「船長と船員が上告のときに有罪であるとわかっていると保証するよう計画しているようである」ことを心配していると述べている。また、「私は船長と船員が公正な裁判を受けられないかもしれない事が心配である」と述べた。