糞害
糞害
糞は動物であれば、普遍的に排出する物ではあるが、これらが動物の習性により、社会問題化することがある。
犬の場合
ペットの犬の糞は、古くは往来の隅や植え込みの陰などに放置されることが多かった。しかし都市部で犬を飼う家庭が増えてくると、これらの放置された糞便が、次第に住民感情を害するようになり、有効な対応策が行政や犬を飼う人に求められるようになった。
この要望に対してフランスのパリ市では、犬に糞をさせるための場所を路上に設置し、簡易バキューム機を搭載したオートバイによる清掃隊を配置して対応しているし、イギリスのロンドン市では、公園などに飼い主が回収した糞を入れるための、専用の汚物入れを設けるなどしている。日本においては、条例により、路上など、公共性のある場所に、ゴミやタバコの吸殻と並んで、犬の糞も放置することに罰金などを設ける所も出てきている。
一方、昨今では愛犬家側にもやっと教育が浸透してきており、犬の散歩の際にはビニール袋やポケットティッシュ持参で散歩する人がだんだん増え始めたがまだ、特に道路がしっかりしていない場所や地べたの場合には放置する愛犬家も多い。犬が排泄したら、その場でティッシュをかぶせ、裏返しにした袋を手にはめて、ティッシュの上から摘んで拾い上げ、そのまま裏返した袋を元に戻して回収すれば、非常に衛生的に始末できるが、近年ではさらに糞の回収を便利にするさまざまなケア用品が発売され、中には便意を催した犬の後ろから宛がって、直接器具内に用便させる「犬用携帯トイレ」も発売されている。なお、一部の愛犬家に至っては、犬を訓練して、散歩前に用便を済まさせ、散歩中に催させない人も居るほどである。
猫の場合
猫は古くより、人間の住居に出入り自由な形で飼育されていたが、現代の住宅地においては、他人の敷地に侵入してしまったりすることもあるために、近所間の問題に発展する事例が近年増えている。
土の露出面積が減った関係上で、柔らかい土を掘り返して用便し、終わった後は土を掛けて隠すことを好むこの動物が、他人の家の花壇や、児童が遊ぶ砂場などに用便してしまい、衛生上の観点や心情的な問題から、隣人関係が悪化してしまう他、特に野良猫を大量に餌付けしてしまう人の近隣や、多くの猫を飼育している家の近所で、住民間の対立を生んでしまう事例も発生している。
また子供の遊ぶ砂場では、野良猫の持っている寄生虫(猫回虫)による被害を防止するため、児童の居ない時はビニールシートを被せたり、定期的に加熱消毒するなどの措置を行う所もあるが、中にはそれほど経費を掛けられない関係から、児童公園から砂場が消えてしまったり、クレゾール石鹸液等の薬品で殺菌しようとして、正しい用法を知らずに原液を撒いてしまい、知らずに遊んだ児童が化学火傷を負うなどの健康被害を生む事件まで発生している。またこれらの問題では「遊んだら手を洗おう」という約束事がまだ守れない幼児ほど、寄生虫などによって病気に成り易い点もあり、軋轢を深める原因となっている。
これらの問題に対して、無節操な飼育方法を見直そうという運動があり、都市部においては飼い猫は屋内で飼うように行政側が提言を行い、飼い主側に自主的な協力を呼び掛けたり、野良猫に餌を与えて養うにしても、
不快感を催させるほどに増えすぎたりしないよう去勢する
健康管理を行って伝染病や寄生虫の蔓延を防ぐ
公共の場所や他人の敷地に放置された糞を猫を世話する側が掃除する
入って来て欲しくない場所には侵入防止用の措置を行う
…といったさまざまな対応をすることで、野良猫と地域住民の共存を図る地域猫制度を推進する自治体やボランティア団体も出始めている。
鳥の場合
ハトは食料さえ豊富なら、非常によく繁殖し、また大きな群れを作ることでも知られるが、これと同時に、増えて群れた分だけまとまった場所に糞をすることでも知られている。近年では都市部で繁殖し過ぎたハトがクリプトコッカスなどの病原体を媒介もするため、衛生面において大きな社会問題となっている。
この問題に対して、都市部でのハト駆除という手もあるが、古くより平和や繁栄の象徴とされてきたハトだけに、手荒な対処方法を取れない行政側も多く、さらに問題を根深いものとしている。この問題に対しては、ハトの餌を断つことで、都市部に集中しすぎたハトの群れを分散させ、繁殖し過ぎないようにする運動が、消極的ながら推進されており、都市部ではハトに餌を与えた場合に罰金が科せられる所もある。
なお中国や欧米・中東では、良く増えるハトは古来より重要な蛋白源としても利用されてきたため、食用として捕獲する分にはそれほど前出の動物愛護問題にも絡まないため、食料資源として捕獲して実数削減に励もうという話も、一部では出るようである。
また、近年ムクドリが何千何万羽単位で大通りの街路樹をねぐらにすることによる糞害も深刻である。
原因については天敵のハヤブサや森林の減少があげられるが、大通りを走る車のヘッドライトが川の水面に似ており、本来ねぐらにしている河原周辺の林と勘違いしているのではないかという説もある。また、大通りの街路樹はヘビやカラスが近づきづらくねぐらには絶好の場所である。
フジテレビでも取り上げられたJR新松戸駅周辺のけやき通りでも深刻であり、初夏から晩秋にかけてのムクドリのシーズンでは周辺の商店の客足が遠のくという。爆竹やムクドリが警戒している時の鳴き声で驚かせる、歩道上空の枝を切るといった対策がとられているが、2005年9月現在も新松戸の空にムクドリの大群が押し寄せている。
また、もしこういった対策で追い払ったとしても、他の町に移動するだけで本質的解決になっていないという問題点もある。
公園の銅像も糞害に悩まされているものが多い中、ハトやカラスが全く寄り付かない銅像も存在することに気が付いた廣瀬幸雄はその銅像の化学成分を研究し、ヒ素の含有量が多いと鳥を忌避する効果があることを突き止めた。この研究業績に対してイグノーベル賞の2003年化学賞が授与された。
人間の場合
人間の糞は、しばしば脅迫や嫌がらせの道具として使用されることがある。創作物ではあるが、『源氏物語』の桐壺の巻で帝の寵愛を一手に受けた桐壺の更衣に対する嫌がらせとして渡殿(渡り廊下)に糞尿を撒き散らし精神的ダメージを与えられる話が記載されている。現実の話ではバブル期において、地上げ屋が汚物の詰まったバキュームカーで乗り付け、汚物を撒き散らして事故だと言い張る事件が在ったとか無かったとか云う話もあるが、実際問題として、痴情絡みの怨恨で、汚物を他人の家の郵便受けに投げ込む輩は後を絶たないようである。また、2005年中頃には東京都中野区の住宅地で自らの糞を庭にて加熱し異臭を放ち続けるという事件が取り上げられて問題となっている。さらに大阪では、大手電機メーカーの元社員が通りがかりの女性に糞尿を投げつけ、傷害の容疑で逮捕された。2001年に起きた名古屋刑務所放水死事件も、きっかけはその受刑者による、自らの糞を投げつける行為であった。それに対して、懲罰と自らの糞で汚れた受刑者の身体の清掃のために、刑務官が放水したのである。
前出の糞と人格形成上の問題から見ても、少々興味深いこれらの事件は、実質的に精神的な被害も然る事ながら、汚損された敷地・設備の清掃にも費用が掛かり、広義の器物破損罪にも問われる行為ではある。