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ヒートアイランド

ヒートアイランドとは?

ヒートアイランドとは、都市部の気温がその周辺の郊外部に比べて異常な高温を示す現象。高温により自然環境が影響を受け、住民の生活や健康にも影響を及ぼすことから、近年問題視されている。対策を行わなければ、人口の集中がある場所では例外なく起こる現象で、都市の規模が大きいほどヒートアイランドの影響も大きい傾向にある。

特に冬場や夜間の気温上昇が著しく、東京では1920年代は年間70日程度観測されていた冬日がほぼ皆無になり、熱帯夜の日数は3倍以上に増加している。

ヒートアイランドの概要

「ヒートアイランド」という語は英語からきており、直訳すると「熱の島」であるが、これは気温分布を描いたとき、等温線が都市を中心にして閉じ、ちょうど都市部が周辺から浮いた島のように見えることに由来する。

従来より気候学においては、高温・乾燥傾向で独特の風系を有するような都市特有の気候を都市気候と呼んでおり、これを研究する都市気候学や都市環境学などの学術分野がある。それらの中でも、ヒートアイランドは主要なテーマとされる現象の1つである。

「都市の気温が郊外に比べて上昇している」ことが初めて発見されたのは、1850年代のロンドンとされている。イギリスの科学者・気象研究者であったリューク・ハワード(Luke Howard)は、当時産業革命により著しく発達していたロンドンの気温が、周辺地域よりも高くなってきていることを発見した。これ以降、欧米を中心に世界各地の大都市で気温上昇が観測されるようになり、やがて"Urban Heat Island"と呼ばれるようになった。日本でもヒートアイランドという言葉が使われるようになり、1970年代に大きく報道されてから知られるようになった。

この異常な温度上昇の主な原因は、端的には都市化に伴う環境の変化である。もともと土や植物で覆われていた原野や田畑を開発して住宅地や商業地、工業地にすると、建物が建てられ、地面が舗装された上、生活や生産に使われた熱が大量に放出され、構造物はその熱の発散を妨げることになる。都市ではこれが数十km四方を超える広範囲で高密度に現れ、結果的に気候の変化をもたらすのである。

海や川の沿岸部に高層建築物が林立することで、風の流れを遮って都市部の高温化に拍車をかけていることも分かって来ている。また、海岸部の都市でヒートアイランドが起きると、内陸の都市化していない地域にも高温化が及ぶ場合もある。

ヒートアイランドの緩和策としては、緑地を増加させたり、不用な排熱を減らしたりといった対策が行われる。

ヒートアイランドの影響

平均気温が上昇することで、寒波のリスクが減少する一方、熱波のリスクは増加する。
夏季の冷房への電力需要の増加。空調排熱が増加することでヒートアイランドに拍車を掛ける面もある。
夏季を中心として、ヒートアイランドによる高温や気流の変化が大気汚染、光化学オキシダント(光化学スモッグ)の増加に拍車をかける。
大気の循環の変化。集中豪雨などの局地現象の変化。
気温の上昇による生物・農業への影響。越冬害虫の増加、冬の低温にさらされる必要のある農作物や夏季の高温に弱い農作物へのダメージ。
気温の上昇による水資源の需要増加、蒸発量増加による資源量減少。
夏季の高温による人体への影響。熱中症の危険性増大、不快感の増大など。
以上の諸影響による社会的な影響。健康被害による経済損失、電力需要増加によるエネルギー負担の増加。

ヒートアイランドの原因

耕地や緑地・水辺の造成、埋め立て、舗装による、降雨の地面への浸透量減少、土中の保水力低下、ひいては蒸発・蒸散量の減少。
舗装のアスファルトや建築物のコンクリートによる、光反射率の低下、熱吸収率の増加。
人工排熱。産業活動における工場、オフィスビルの情報機器、家庭の空調設備、自動車などによる人工排熱など。
建築物群による、都市キャノピー層の風の流れの変化(滞留)。
高層建築物群や沿岸の埋め立てによる、海風・川風の遮蔽。

都市気候モデルによるシミュレーションでは、土地利用の変化や建築物の効果による寄与が大きな割合を占める一方、排熱による効果は局所的なものに限られると推定されている。

ヒートアイランドが進めば進むほど、冷房需要が増加し、それが排熱の増加を招いてヒートアイランドをさらに促進するという悪循環も指摘されている。

ヒートアイランドの緩和策

太陽光の吸収量を減らす、排熱を減らす、冷却効果を高めるといったことを目的に緩和策が取られている。

道路や空き地、建築物表面の緑化。 近年は屋上緑化・屋上庭園・壁面緑化(緑のカーテン)の採用も多い。東京都や兵庫県においては条例によって一定の条件下で屋上の緑化が義務付けられている。また多くの都市で助成金が出る。
路面電車では、軌道敷に芝生を敷き詰めるという方策を採るケースもあり、「緑化軌道」や「芝生軌道」とも呼ばれている。この方策により、軌道敷内では車道部と比較して10度以上低い温度となるという実証試験の結果が報告されている。

高光反射率素材・塗料の採用。
水辺の整備、湿地や湖沼などの保護や拡張。
清流復活事業で河川の流れを復活させる。
透水性舗装・保水性舗装・遮熱性舗装の採用。
「風の道」の確保。水上や郊外から涼しい空気が都心に流れやすいようにする。シュトゥットガルトの事例やベルリンのポツダマープラッツ周辺再開発に伴う事例が有名。
散水、打ち水。
ドライミストなどの新たな冷却機器の設置。
自動車・航空機などの輸送機器、建築物(空調・給湯)からの人工排熱の抑制、冷却。 排熱の大きいところでは、コジェネレーションやコンバインドサイクル発電導入による効果が期待できる。
交通・輸送分野では公共交通機関への移行およびモーダルシフトなどがある。
産業・家庭分野では少排熱型製品への転換、省エネルギーなどがある。

ヒートアイランド現象が都市化と密接に関わっているだけに、本格的な対策には都市計画を巻き込んだ様々な視点からの見直しが必要となる。大きな効果を挙げられるような緑化・水辺の整備・『風の道』の確保、また根本的な対策として郊外への人口分散による都心の過密解消などを行うとなると、事業規模や費用が大きくなり、弊害も大きいため、合意形成や費用分担も難しくなる。そのため、建て替えや再開発等の機会を利用してコストを抑えて行われることが多い(例:東京駅八重洲口再開発による丸の内への『風の道』復活)。

また、多くの緩和策は地球温暖化の緩和策とも共通し、ヒートアイランド対策が地球温暖化対策として(逆もまた同じ)効果を発揮することもある。

地球温暖化との関係

都市の一部はその周囲より数度高温になることがあるため、都市が広がった効果が全地球的な気温の上昇と誤解されているのではないかという懸念がなされてきた。実際は、「ヒートアイランド」は重要な局所的な効果であるが、気温の記録に見られる傾向を歪めているという証拠はない。例えば、都市部と田園部の傾向は非常に似ている。

IPCCの第3次レポート(2001)には次のように書かれている。

しかし、ヒートアイランドの効果がもっとも顕著であるのは北半球の陸地であるが、そこでは対流圏低部の温度と地表の空気の温度の間には有意な差はない。実際、北アメリカの地表の空気は10年に0.27度で気温が上昇しているが、対流圏低部の温度の上昇はこれよりわずかに大きい10年に0.28度の速さであり、この違いは統計的に有意でない。

すべての都市部がその周りの田園部に比べて温暖化しているわけではないことにも注意する必要がある。例えば、ハンセンら(JGR, 2001)は、気温の記録を均一化するために、世界中の都市部にある観測所の傾向をその周りの田園部にある観測所にあわせて修正した。これらの修正のうち、42%は都市部の傾向を温暖な方に修正した。つまり、42%の観測所では、都市はその周りの田園部より暖かいのではなく、涼しいのであった。この理由のひとつは、都市部は不均一であり、また観測所は都市の中でも『クールアイランド』が起こっている場所(例えば公園)に置かれていることが多いからである。

Peterson(2003)によると、ヒートアイランドの効果は誇張されて伝わっており、この研究では「一般的に受け入れられた考えに反して、年平均の気温には、統計的に有意な都市化の効果はない」ことがわかった。この研究は人工衛星によって夜間の都市部の照明を検出し、さらにもっと詳細に時系列を均一化することによって得られた(時系列のデータは、たとえば都市部の周りの田園部の観測所の傾向を都市部に対し暖かいほうに(つまりその部分は都市部に比べて涼しかった)修正してあった)。論文が言うように、この結論が認められるなら、「部分的には都市にそのまま設置されている観測点からも寄与がある地球の平均気温の時系列データがどのようにして都市の温暖化に汚染されずにいるのか、という謎を解く」必要がある。主な結論は、微小だったり局所的だったりする影響がヒートアイランドの中程度のスケールの影響を圧倒しているということである。街の多くの場所は田園部の観測点より暖かいが、気象の観測は公園のような『クールアイランド』で行われていることが多い。

2004年11月の Nature と2006年の Journal of Climate に出版された David Parker の研究では、静かな夜に測定された気温と風のある夜に測定された気温を比較することによって、ヒートアイランドの理論を確かめようと試みた。もしヒートアイランドの理論が正しいなら、風は都市や測定機器から過剰な熱を奪うので、測定器は静かな夜のほうが風のある夜より高い温度を記録するはずである。静かな夜と風のある夜では違いはなかった。著者は次のように言う。「我々は、地球的には、陸地の気温は風のある夜と風のある夜で同じ程度に上昇してることを示した。これは観測された全体的な温暖化は都市化の結果ではないことを示している。」

しかし、Roger A. Pielke は、Parkerの2004年の論文には「結論に深刻な問題がある」[3]と主張した。Geophysical Research Letters に出版された Pielke の研究では、「もし夜の境界層の熱の流れが時によって変わるなら、地表の層に弱い風があるときの気温の傾向は高さの関数になり、風が強いときと弱いときでは同じ気温の傾向は起こらない。」という。

地球温暖化の懐疑論者がしばしばとる別の見方は、陸地に置かれた温度計で見られる気温の上昇の大部分は、都市化による上昇と、都市部に配置された観測所のせいであるということである。しかし、これらの見方は主に商業出版で提示されており、査読を受けた科学論文でこの見方をとっている論文はない。

IPCC第4次評価報告書(2007年、P.244)では次のように書かれている。

半球的や全球的なスケールで観測を行った研究によれば、都市に関係した気温の傾向は、気温の時系列に見られる10年程度やそれ以上の時間スケールでの傾向より小さい程度である(例えば、Jones et al., 1990 や Peterson et al., 1999)。この結果は、部分的には、データからはっきりと都市化に関係した温暖化の傾向がある少数(1%未満)の観測所を除いたことによっている。世界の約270の観測点の中で、夜の最低気温の上昇傾向は、1950年から2000年の間、もっとも大きく都市の温暖化の影響を受けやすい時間帯である風のない夜でも特に強められてはいない、ということをParker(2004, 2006)は注意した。だから、問題になっている全球的な陸地の温暖化傾向が都市化した場所の増加に大きく影響されている可能性は非常に低い(Parker, 2006)。(中略)よって、この評価では、都市の温暖化の不確実性の程度は第3次報告書と同じように計上する。すなわち、1900年以降、陸上では10年に0.006度であり、海洋ではヒートアイランドはゼロなので、全体では10年に0.002度である。

その後2011年10月にスタンフォード大学らが報告した結果においても、ヒートアイランドの影響量は産業革命以降に観測されている温暖化の2~4%程度に過ぎないと見積もられている。

ここでクリア