パルプ原料にならない木材チップや樹皮などの木質材料を利用した新燃料を開発!
木質材の新燃料 CO2排出量削減に
日本製紙グループ本社は、パルプ原料にならない木材チップや樹皮などの木質材料を利用した新燃料を開発した。石炭火力発電設備での燃焼試験を成功させ、微粉炭に新燃料を3割まで混ぜることができるという。木質材はこれまでも一部が発電用燃料として利用されていたが、新技術によって石炭などの燃料を大幅に減らせる。植物系由来の燃料のため、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量削減にもつながる。
木質材は、そのままでも燃料になる。これまでも木質ペレットに加工し、電力会社が石炭火力に使用する例もあった。ただ、熱量が一定ではなく、水分も多いため燃焼制御が難しい。また、水を吸いやすく保管にも難点があり、構造的に強く破砕に多くのエネルギーを費やすこともネックとなるなどの欠点が多かった。このため、現状では石炭に混ぜるには数%程度が限界とされていた。
日本製紙は今回、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と共同で、植物廃材を一度蒸し焼きにし、「トレファクション(半炭化)」と呼ばれる状態にしてからペレットに加工する方式を採用した。
新技術は、蒸し焼きの温度を240度程度としたのがポイントだ。これにより木質を構成するセルロース、リグニン、ヘミセルロースのうち、ヘミセルロースだけが気化し、消失。木材特有の粘りや強度が低下し、圧縮加工が容易になるほか、熱量も元の9割程度が残る。しかも、同じ熱量の木質ペレットと比べ、7分の1の減容化が可能になるという。
新燃料のペレットは水をはじく性質があり、石炭などと同様に屋外で保管したり、トラックや船便で長期間運搬することも可能。構造的にもろいため、簡単に破砕し石炭ボイラーに投入しやすい利点もある。
実証試験は、同社小松島工場(徳島県)の遊休施設で行われた。新燃料製造の最初の工程となる蒸し焼きは、ペーパースラッジ(製紙工程で生じる汚泥)の乾燥に用いる既存のロータリーキルンを活用。ペレットを作る圧縮装置も既存設備を用い、約60トンの新燃料を製造した。これを別の工場で稼働中の微粉炭ボイラーに使用し、理論上、最大3割の混焼が可能なことを確認した。
同社研究開発本部の海老沼宏安主席研究員は「燃料としては期待通りの性能。製造設備も改良していけば、生産効率はもっと上がる」と手応えを感じている。
木質材を燃料化できるメリットは大きい。石炭の使用量を抑えてCO2排出を減らせるだけでなく、それによって発電した電力は、7月から施行される再生可能エネルギーの全量買い取り制度の対象となる。木質チップや樹皮など林地残材により発電された分の電力はバイオマス発電となるため、1キロワット時当たり31円80銭で売電可能となりそうだ。
主力の洋紙の需要が頭打ちとなり、同社でも新たな収益事業の模索が続いている。同社は5月、企業などへの電力供給が可能になる電力卸事業(PPS)としての届け出を資源エネルギー庁に行い、受理された。
今夏の電力不足が再び懸念される中、大型の自家発電設備を持つ大手製造業は電力供給の担い手として期待が寄せられている。製紙業界もその一角だ。同社は木質材を利用した新燃料の実用化を急ぎ、PPSを収益事業と位置づけると同時に、環境保全にも貢献していきたい考えだ。
2012.06.17